※これの続きっぽいけど別に単品でもいい
※おまけ4コマネタ
足がスースーして変な感じ。ストッキングを履いているから多少安心と思いきやその違和感はいつまで経っても拭えない。ファルマン准尉との待ち合わせ場所で、私はスカートの丈ばかり気にして数秒置きに下半身を確認する。早く着いてしまった。腕時計の針は集合時間の15分前。こんな場所であと15分も羞恥プレイに耐えないといけないだなんて……やっぱりミニスカどころかスカート自体ほとんど着ることのない私にはちょっとハードルが高かったかもしれない。などと後悔し始めた頃になってファルマン准尉は現れた。
「随分早いな」
「ファルマン准尉こそ」
「俺はほら、あれだ。初めて来るところだから迷子にならないようにって……一応だよ、一応」
「……私もそんな感じです」
嘘だけど。本当は今日が楽しみすぎて、絶対に遅刻しないようにと1時間余裕を持って家を出たのだ。遠足前の子供かよと我ながら呆れる。
「ていうか……ほ、ほんとにそれで来たのか……」
「えっ」
それ、とファルマン准尉が視線を逸らしつつ指さすのはスカートである。もちろんミニスカ。ファルマン准尉の大好きなやつ。
「だめでしたか?」
「だめっていうか……目のやり場に困るというか」
「いやせっかく履いて来たんだからちゃんと見てくれないと浮かばれないんですけど」
「……あとでセクハラとか言うなよ!」
「言わない言わない」
セクハラで訴えたりはしないけど、もし目つきがいやらしかったら存分にからかってやろう。それにしても、ミニスカが好きなくせにいざ目の当たりにすると直視できないだなんて難儀な人だ。いっそマスタング大佐くらい堂々としてくれていればこちらも恥ずかしさが半減するのに。あ、でも大佐はおさわりもしてきそうだなあ。この様子だと彼の方にはそういった心配もなさそうだ。まあ減るものではないし、私の方は別に構わないのだけど。ほんのり顔を赤らめたファルマン准尉は私のスカートをチラ見してからすぐに横を向いた。見事にノーコメント。似合ってる、くらい言ってくれてもいいのに…………あ、もしかして似合ってなかったのだろうか。なんの疑問もなくこの日のために買ったスカートだが考えてみれば着るのも今日が初めてなわけで、絶望的に似合ってない可能性はゼロではない。かと言って自分から感想を求めるのもアレだし……と私の心情も知らず、ファルマン准尉が「じゃあ、行くか」と歩き出した。つい仕事中と同じように大股で続こうとしたらこれまた慣れないハイヒールのせいで足首がぐにゅんと嫌な曲がり方をして私の体が傾く。
「……っと、危なかったな……」
「す、みません」
間一髪、ファルマン准尉が私を支えてくれたおかげで転倒は免れた。こういう咄嗟の反射神経の良さは腐っても軍人である。
「足捻ったか?」
「いえ、大丈夫です。ちょっとバランスを崩しただけで」
と言いつつ私の足首はじくじくと鈍い痛みを訴えているのだが、まあ少しくらい平気だろう。良いのか悪いのか、軍に身を置いているお陰で怪我には敏感だが多少の痛みには鈍感だ。しかしファルマン准尉の方は気にしているのか、心なしかいつもより歩くスピードが遅い。長身の彼とは歩幅が全然違うので自然と早足になることが多いのだけど、今はその必要もなさそうだった。
今日の目的地は公園である。約束を取り付けたあとで「デートって言ったけど具体的になにすればいいんですかね」と正面切ってファルマン准尉に問えば彼の方も「だから、そういうのは俺に聞くなって……」としどろもどろな有様。まったく私たちに色恋沙汰は向いていないらしい。自分で言ってて悲しいけど。最終的に公園に決まった理由はただ単に他が思いつかなかったため、だった。待ち合わせ場所から歩いてすぐのその公園は適度な広さと静けさで、家族連れやペットを連れた若者なんかがのんびり散策を楽しんでいる。それを見てここで正解だったかもと私は内心安堵していた。
「飲むもの買ってくるから、軍曹は座っててくれ」
「え、それなら私も一緒に……」
「いいから座ってろ」
「は、はい……」
ファルマン准尉にしては圧がすごい。私はつい気圧されて静かに頷いた。木陰のベンチの端っこにそっと腰かけ、ファルマン准尉の背中を見送る。公園内に来ているフードトラックの方へ向かったファルマン准尉はなにか注文して数分待ってから再びこちらへ戻ってきた。
「どっちがいい?」
差し出されたのはコーヒーとフルーツジュース。私はファルマン准尉がフルーツジュース飲んでる姿が想像できないからという理由でコーヒーを選んだ。
「ブラックだけど」
「大丈夫ですよ、司令部ので慣れてますから」
私にコーヒーを手渡したファルマン准尉は、自分の分のカップをベンチに置くと徐に私の足元へしゃがみこんだ。
「え、なんですか」
「足。靴脱げ」
なにか袋持ってるなあとは思ったけど、それは氷だった。さきほどのフードトラックで分けてもらったのだろうか。結局捻挫はバレバレだったらしいので、これ以上隠してもメリットがないだろうと判断した私は素直に靴を脱いだ。ファルマン准尉は私の足を自身の太腿に乗せるとポケットから出したハンカチで包んだ氷を足首に固定する。
「……腫れてきてるじゃないか」
「えっほんとですか」
「痛みは?」
「うーん、我慢できる程度なんですけど」
「いや我慢するなよ……」
「…………だってせっかく約束したからなんかもったいなくて」
「……これくらい、いつでも付き合うって」
てっきり怒っているのかと思ったけどどうやら違うらしい。ファルマン准尉の横顔は少し照れくさそうだった。そっか、また付き合ってくれるんだ……。
「じゃあ、今度は遊園地がいいです」
「わかった。……それはいいんだけどな、軍曹」
「はい」
「あんまり足を上げると……その、見えそうで困るんだが」
「え?ファルマン准尉が見たいなら別に構いませんよ?」
「おまっ……!ちょっとは羞恥心というものをだな……!」
「すみません嘘です……。さすがの私もそこまでは吹っ切れてないです」
まったく……と呆れながらベンチに座ったファルマン准尉はようやくフルーツジュースに口を付けた。
「……うまいな」
「おいしいですね」
まあ司令部のクソマズコーヒーと比べてしまうと世の中のコーヒーは大体美味しいに分類されそうではあるけれど。逆にどうすればあそこまで不味くできるのか教えてほしい。豆か?やっぱり豆なのか?休みの日くらい職場のことは忘れたいのだがふとした拍子に思い出してしまうのが悔しい。やめよう、それより緑を見て癒されよう。そうやって二人ベンチに並んで座ってぼーっと公園を眺めた。少し離れたところでは3歳くらいの子供が両親とボール遊びをしている。なんて平和な光景だろう。隣のベンチではカップルっぽい男女がイチャイチャしていた。うわ、気まずい。慌てて視線を戻したら同じ方を見ていたらしいファルマン准尉と目が合う。な、なんですか……。
「……軍曹」
「は、はい」
「スカート、似合ってる……」
「え、えへへ」
「なんだその笑い方」
いや褒めてほしかったけど実際褒められると反応に困るっていうか。私は心の中で一生懸命言い訳しつつ誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。
肺で淀んだ酸素は甘い::ハイネケンの顛末