※ある意味ホラー
……は?え?え?いやいやいや…………は?3度見してみたが状況は全く変わらず、私の隣にはぐっすりお休み中のファルマン准尉が居た。……………………ああ、夢か。なんだ良かったあ~。よっしゃ二度寝しよ。もう一度布団に潜り込んでみたもののすぐ横にいるファルマン准尉っぽい男の寝息が嫌でも聞こえてくる。…………いやいやいや!どういうこと?全身から血の気が引いていくのを感じながら再び飛び起きて思わず着衣を確認する。……異常なし。ファルマン准尉も……昨日着てた服とたぶん同じ。ていうかここどこ?少しだけ落ち着きを取り戻した私はベッドの上から部屋の中をぐるりと見渡してみるが、とんと見覚えがない。考えられる可能性はふたつ。ここはファルマン准尉のアパート、またはどこかのホテル、そのどちらかだろう。それはいいとして……一体全体どうしてこんなことになっているのだろうか?私は頭を抱えて昨日の出来事を思い出してみる。昨日は軍の飲み会で……なんかすっごい美味しいお酒を飲んだことは覚えている。マスタング大佐が奢るって言うから、ここぞとばかりにおかわりしまくったんだった。ええと、それから……だめだ、ファルマン准尉にウザ絡みしていたことしか思い出せない。真っ先に甦ったのは困り顔のファルマン准尉にセクハラをする自分の姿だった。ファルマン准尉の腕が意外と筋肉質だったことに気付いた私は酔っていたせいもあって彼の腕をずっと離さなかったのだ。うわなにやってんだ私。起きたら謝らなきゃ……ってそうじゃなくて!そのあと、そのあとどうしたっけ?うーんうーんと唸ってみても一向に記憶は戻らなかった。早々に諦めた私は再度隣の男に目を落とす。ファルマン准尉……だよなあ?どこからどうみても、それは普段司令部で会うのと変わらない彼の姿だった。違うことといえば軍服を着ていないくらいか。とりあえず本物であるかを確かめようと、ほっぺたをつついてみる。痩せこけた頬はもっちりぷにぷにとは言い難く、触り心地は良くない。というか当然ほっぺたなんか一度も触ったことないのだから、これで本物かどうかなど判断できるわけがなかった。ただ、その感触が指先へリアルに伝わってきたことでこれが現実だということはわかった。となるといよいよピンチである。状況から見てなにもなかったようではあるけれど、もしかしたら人に言えないようなヤバいセクハラをしてしまった可能性もある。……これからどうしよう。ファルマン准尉に起きてほしいのはやまやまだが、さすがに気まずすぎる。かといって昨晩迷惑かけまくっておいて黙って消えるのもどうなんだという葛藤もあった。つ、詰んでる……。とりあえず顔洗って落ち着こ………………ってここ自分の家じゃないんだった!ひとりでわたわたしていたらファルマン准尉が身じろぎしたのでぎくりと動きを止める。恐る恐る様子を伺ったがまだ起きないようで私は止めていた息をほーっと吐いた。それにしても……背の高いファルマン准尉の顔がこんなに間近にあるのは珍しい。やることもないので、私は彼が寝ているのをいいことにまじまじと観察してみた。グレーの髪は少しパサついている。短い毛先を指で掬ってはさらりと落ちるのを繰り返しているとファルマン准尉の顔がぴくりと動いたので咄嗟に指を離す。……まだ起きない。起きてほしいようなほしくないような複雑な気持ちだが、いつまでもこうしているわけにはいかない。いっそ置手紙でもしてトンズラしてしまうか?ファルマン准尉の寝顔と壁を交互に見ながら百面相していた私は、ふと彼の肩が僅かにぷるぷるしていることに気付く。まさかとは思うけど……
「…………あの、もしかしなくても、起きてますよね?」
「……悪い、軍曹の反応がおもしろすぎて起きるタイミング逃した」
「ファルマン准尉のいじわるーーっ!ドッキリですか!?いたいけな少女を捕まえて大人のドッキリか!?」
悔しくて腹いせに枕でばしんばしんとファルマン准尉を叩いたら「誰が少女だ、誰が」というツッコミとともにあっさり手首を掴まれる。あえなく私のターン終了。
「いや聞けって……お前、昨日飲みすぎて泥酔状態だったんだぞ。覚えてるか?」
全然!とばかりにっこり首を横に振ったら心底呆れたようなため息を吐かれてしまった。ええ……なにその反応、怖いんですけど。確実になにかやらかしてるやつじゃん。
「俺と家が同じ方向だったから送って行ったんだけど、帰ってる途中でお前が急にふにゃふにゃしだして……しまいには路上で寝そうになったから仕方なく俺の家に連れて来た」
「……ま、誠に申し訳ございませんでした……」
「いやまあ、いいけど……あんまり飲みすぎるなよ」
「はい…………それで、事情はだいたいわかったんですけど、どうして私たち一緒に寝てたんです?私のことなんてその辺に転がしておいてもらってもよかったのに」
「できるかそんなこと……何言ってんだ。これはなぁ、やっと帰ってきたはいいけど今度はお前が寝ぼけて俺の服をがっちり掴んで離さないもんだから、どうにもならなくて諦めて俺もそのまま寝たんだよ。言っておくけど、なにもしてないからな!」
「…………ま、誠に申し訳ございませんでしたッ……!」
ズビッと眉間に人差し指を突きつけられ、私は土下座しかできなかった。もう一生彼には頭が上がらないし足を向けて寝られない。しかし相手がファルマン准尉だったのは不幸中の幸いだった。きっとファルマン准尉なら私の失態をそこら中に吹聴したりはしないだろうし。
「いやあ、でもめちゃくちゃ焦りましたよ……てっきり私がファルマン准尉をお持ち帰りしちゃったのかと」
「お前が持ち帰る側かよ!普通逆だろ!」
「だってファルマン准尉はそんなことしないでしょ」
「……まあ、信用してくれてるのは有難いんだけどな」
言いながら、ファルマン准尉の両手が私の肩にそっと置かれる。
「油断はよくないぞ、軍曹」
え、な、なんか雲行きが怪しい気が。困惑する私などお構いなしのファルマン准尉が口角をにやりと上げた。いつものファルマン准尉じゃない!!などと茶化す余裕もないまま、私の背中はベッドに向かって傾いていった。
「……はっ!!?」
目が覚めると外はすっかり明るくなっていた。遅刻だーーー!と一瞬慌てたがそういえば今日休みだったわとすぐに思い出す。冷や汗をかいているのか全身が妙にしっとりしている。なんかすんごい夢を見てしまった。ゆ、夢……?夢かああああ!夢でよかったあ!!!欲求不満なのかな、私……。明日からどんな顔してファルマン准尉に会えば良いんだ。気まずすぎる。とりあえず・軍曹、今日からお酒止めます。そう決意してふと横を見れば、さきほど夢で見たものと同じ光景が広がっていた――
あなたのことなんて本当はなんにもしらないの::変身
ファルマン准尉はこんなことしないので全部夢です(大声)
あと管理人の書く准尉(中央時代)はアパート住みです(ただの願望